Kim & Jessie & ......

見つけてもそっとしておいてください……

学科同期 中編

ロッジに戻るとまだバーベキューが始まっていなかったので,社会人のラインに返信しました.その日は空いてないです,最近忙しいのでしばらく会えないと思いますとだけ.無愛想なのが文面から伝わるように意識しました.それからはロビーのソファでスポーツ紙を読むなどしてくつろいでいました.

 

先ほど散歩に出ていた2人の男子学生が,同じ部屋と思わしきもう1人の4年生も加わって3人で戻ってきました.

名前が思い出せるのが散歩組2人に加わった1人のみだったので,会話することになったら面倒だなと内心ひやひやしていました.加わった1人は大学のミスターに選出されるなど目立った学生で,誰にでも気さくに話しかけるいわゆる陽キャだったので,声をかけられるだろうと思いつつ,ひょっとしたらスルーされるかもしれないと期待して居眠りするフリをしてみました.名字が思い出せないけど4年生と認識していた丸メガネが去り,3年生らしき散歩組の細目と陽キャが前のソファに座りました.

 

タピオカじゃん,何やってんの?と陽キャに声をかけられ,強制的に会話に巻き込まれました.

タピオカというのは私のツイッターの垢名で,陽キャだけはそのように呼ぶのでした.

バーベキューが始まってなくて暇だからのんびりしてるとてきとうに返答すると,服装を褒められました.

その服ロックな感じじゃん.

うんめっちゃ良いと思う.

横にいた細目にも褒められました.照れ臭くなりました.ちなみに服装自体はいつも家でパジャマとして着ていたトレーナーと,着古したスキニージーンズで,太った体型だと褒められてないだろうと思えるてきとうな服装なのでした.

陽キャが細目と私に面識がないことに気付き,お互い紹介し合う流れに持っていきました.聞くと細目は,合同で合宿を行っている,私の所属する方ではないゼミに所属する4年生だそうで,実は同期でした.

学科に50人もいたら面識のない学生同士がいても不思議ではないですが,なんとなく,自分の大学での交友関係の狭さが露呈したようで,気恥ずかしく思いました.

その後は何気ない会話を交わしていたと記憶しています.

猫博物館に行ってきてどうだったとか,バーベキューの買い出しがどうだったとか.

途中陽キャが,タピオカちょっとテンション高くない?と聞いてきてドキッとしたと同時にイラつきました.発表でお酒飲んだからもう出来上がってんだよ,と,本当はほろ酔い半缶しか飲んでいなかったのに,一連の3人の会話の中で最もてきとうな返事をしました.

その後,湘南に実家があり伊豆にロードバイクで向かっていた頭がぶっ飛んでいるゼミ同期がいたのですが,我々3人がロビーで話しているときにちょうどロッジに到着し,かなり場が湧いたりしました.駅からロッジまでの坂道がきつかったらしく,登り切った後の鬼気迫る眼と筋張った首を見て,私より明らかに出来上がってんじゃんと思いました.

 

 

バーベキューが始まりました.

バーベキューでは,去年と同じように大きなサザエが提供されました.

そしてサザエの蓋を開けられる人間が持て囃されたりして盛り上がり,そんな様子を遠巻きに見ながら,平和だし確かにとても楽しいと思っていました.

食材を焼くなどの仕事は特にせず,焼き上がって余っているものをそっと貰いに行くというスタイルで参加するので,基本隅のベンチで座って余っている人と会話をします.

 

留学から帰ってきた4年生や,同じゼミの3年生と話したりしていました.ヨーロッパに留学していた4年生女子は,留学先で,プライドが高く女性蔑視的価値観を持ち,DVっぽくもあるというやばいアジア系学生を好きになってしまったという話をしてくれました.自分も一部似た経験をしていたので,心が痛みお酒が進みました.マジックマッシュルームを体験しに,いつか一緒に旅行に行こうという約束まで交わしました.

同じゼミの3年生女子は,むっつりスケベの見分け方を話してくれた記憶がありますが,肝心の見分る方法自体を失念しました.得意げに,とても一生懸命話す様子がかわいいなあと思ってぼんやり話を聞いていたので,忘れてしまったのだと思います.それに,人間は多少むっつりスケベな方が愛嬌もあると思うので,わざわざ見分けて排斥しなくても良いのではないかというのが持論です.

 

 細目と名字を忘れていた丸メガネの同期がいたので,自然とそこに加わりました.

ちなみにバーベキューの段階では丸メガネの名字を無事思い出せていたので,緊張せず会話に加われました.

 かなり酔いが回っていたのでこのあたりから記憶が怪しくなり,上機嫌になってきます.

細目と丸メガネとは,映画が好きだという話で盛り上がりました.3人とも大学1年生の時に映画論という講義を受講しており,濱口竜介の「ハッピーアワー」という作品が最終レポートの課題作品でした.その「ハッピーアワー」がいかに素晴らしいかという話題でひとしきり盛り上がり,最新作が公開中で私だけが鑑賞済みだったので2人にオススメしました.珍しく会話の中で相手に有益な情報を提供できているぞ,という謎の実感が湧き,上機嫌が加速しました.

しかしながらその後の会話は本当にしょうもなく何気ない,そしてこの上なく楽しいものでした.所属するゼミの先生が,デビュー当時はドラマや映画などの作中で脱いでいた女優やグラビアアイドルが,段々と服を着る役に移行してくる様子を見ると感無量になるという話を熱く語り,細目が気を遣って私の方をチラと見ながら,こんな話題で申し訳ないと思うけど,確かにそれは絶対感動しますよね,とゼミの先生に対しても私に対してもフォローをしてくれていました.

酔っ払った私は,世の中善良で気の利く優しい人間が多いもんだなあと,おめでたく感心していました.

そのうち,細目と2人で恋人の有無や過去の恋愛の話をする流れになりました.こういう話題こそ大学生のバーベキューに相応しく,この調子いい感じと自分を励ましました.

私はゼミ合宿に参加する2ヶ月ほど前に,数ヶ月だけ付き合った男性と別れていましたが,その男性はふた回り近く年が離れており,精神的にも未熟で,いかんせんかなり消耗する恋愛でした.なので,こいつをいきなり出すのは重いしまずいだろうとの判断から,もう一人前の元カレの話をしました.その元カレもマシではあったものの,なかなかにクズだったので,元カレの悪口を大盤振る舞いし,その彼氏と別れてからはもう1年ほど恋人がいないと話しました.

嘘をつくことに対する若干の後ろめたさがありましたが,20も年が上のバツイチ子持ちと付き合ってたよ〜〜〜なんて言い出す勇気はありませんでした.

いや,正直に言うと,話す相手が細目の彼だったので憚られたのかもしれません.

それまでの交流で,知り合った当日の第一印象でしかないですが,人懐っこく可愛い笑顔,会話の中で垣間見られる気遣いのできる性格や優しさに,私自身好印象を抱いていたのは間違いありませんでした.

普段,特に酔っ払った席では,自分をコンテンツに全振りし,毒を吐き散らし,自分や他人までも切り売りし身を削って笑いや驚きをとりにいく,そういうやり方が染み付いている人間です.相手や場が違えば迷うことなくバツイチ子持ちの話を切り出しました.

しかし,それができませんでした.そんなやばい男性と付き合う女子大生はやばいに決まってるという認定をされたくなかったのかもしれません.自分の話を進めながら,同時に自分の自意識やプライドを瞬時に自覚し自己嫌悪とともに少し凹みました.

 まあでも,私のテンションのわずかな下落など無視され会話は続いていきます.

細目には付き合って1年半ほどの彼女がいました.

所属する軽音サークルの先輩で,今年社会人一年目,アパレル関係で働いている,料理が上手などの話をしてくれました.

私は,なんだあと,とても良い意味で拍子抜けしました.もっと肩の力を抜いて気楽に話しちゃおうと安心しました.なんなら,バツイチ子持ちの話を伏せたことを後悔しました.笑いを取りつつドン引きさせちゃってもよかったのになあと.

すると,今の彼女について,根本の考え方が違うから結婚するかは微妙だけど,心地良いから付き合っている,惰性かもしれない,と突然神妙で暗い表情になりました.

良いんだよ〜惰性でも別に,若いし,本当にダメな時がきたら自然と別れるものだよ〜〜と励ましました.細目くんは真面目で気を遣う性格ゆえ,そういうことで悩むんだと思いました.精神が乱高下する恋愛を繰り返してきた自分からすれば,惰性で付き合い続けられるなんて理想のようなものでした.ましてやサークルの先輩で音楽の趣味も合う相手です.理想,とは違うかもしれませんが典型的なリア充大学生活を体現したような彼の恋愛をとても羨ましく思いました.また,優しく気が利き,まともな相手とまともな恋愛をしている細目くんに対する好感度がぐっと上がりました.自分は,世界全体の幸福と不幸の総量が決まっているとすれば,どちらかというと汚れ役を引き受けている自覚があったので,細目のような純粋に良い子は,純粋な幸せを噛み締めて生きていてほしいのです.

 

バーベキューが終わり大量の花火をしました.

花火を振り回したりしてそれなりにはしゃぎました.

花火と記念撮影が終わると,部屋ごとに固まってお風呂に入りました.

順番が回ってくるまで同室の女子学生たちと部屋で雑談して過ごしていましたが,古いロッジなのでその時にゴキブリが部屋に出て一騒動ありました.

私と人種の違う女子学生たちは騒ぐばかりで,ゴキブリが平気な人種の私が結局スリッパで潰し,コンビニで貰う小さい袋に入れて縛って,わざわざロビーのゴミ箱に持っていって捨てました.スリッパもロビーに置いてあるものと交換しました.

 

ゴキブリひとつできゃあきゃあ騒げる人間に生まれていたら,幾分かは生きるのが楽だろうにと,酔った頭でイラつきつつ淡々と処理をしました.