Kim & Jessie & ......

見つけてもそっとしておいてください……

学科同期 前編

大学4年生,伊豆,9月の下旬.

 

ゼミの合宿でした.

 

当時,私は大学で社会学というつかみどころのない学問を専攻し,半分遊びなんじゃないかと思えるものも含まれる様々なテーマで論文を書く学生に囲まれ,モラトリアムの残りの半年を過ごしていました.

 

社会や国際という単語がつく文系学部学科は,大抵人数が多いものです.

通っていた大学で社会学を専攻する学生も,同学年だけで50人ほどいて,友達の少ない私は学科の同期であっても面識のない学生が多くいたのでした.

 

 

ゼミの合宿は,二つのゼミが合同で行われました.

全体で30人ほどの参加者がいて,二泊三日が予定されていました.

 

大学生30人の集団という表現だけで,私のような人間は少し怖気づきます.

その上に,二泊三日です.

内気な人間を殺しにきている.

 

論文進捗の発表もそこそこに,コンパでは安くまずい酒を回し飲み,どんちゃん騒ぎ,気づいたら男女2人が抜け出したりして,そういう猥雑なことがこの世でもっとも嫌いなのでした.そしてそれが二晩続くのです.

 

数人の学生は二日目で帰ったり,反対に二日目から参加したりしていましたが,彼らの気持ちがよくわかります.

かくいう自分も,合宿の1日目に予定があったわけではないのですが,1人東京を出て,東海道本線伊東線伊豆急行をのんびり乗り継ぎ,二日目から参加する,途中参加組でした.

 

 

昼過ぎに到着して早々,発表がありました.

形式上は,4年は卒業論文,3年はゼミ論文の進捗発表を行う時間が設けられていましたが,ゼミの教授自身がお酒が好きなのでもう既に飲み始めていて,発表なのか飲み会なのか判別つかないような空気になっていました.

その空気に戸惑い乗れないまま自分の発表を進めましたが,みんな酔っ払っているせいか,思いの外褒められ安心しました.

 

そのあとは夕方のバーベキューとコンパまで少し時間がありました.

各々本を読んだり観光に行ったりするようです.

 

私は,部屋で準備をしてから,1人で猫博物館に行くことにしました.大学生の合宿に似つかわしくない単独行動でしたが,それなりの理由があります.

ゼミには1人だけとても仲の良い女子学生がいましたが,彼女は所用のため合宿には来ていませんでした.もう1つのゼミと合わせて,他に女子学生が何人か来ていましたが,彼女たちと私は雰囲気が違っていて,同じ部屋であることも行動を共にすることも億劫でした.

 

部屋に誰かいたら会話をしなくてはならないし怠いなあと思いながら荷物を運びましたが,同室の女性たちはどこかに出ていて部屋には誰もいませんでした.

私は荷物の整理や仮眠などで30分ほど時間を潰し,伊豆のロッジを出ました.

 

 

猫博物館に着いた頃には16時になっていて、閉館の17時まであと1時間でした.

受付のおばさんに1時間で全部見れますかと質問したら,展示自体は全然見れますが,二階の猫と触れ合えるスペースで2、3時間いる人はいますよ,と教えてくれました.質問した際に苦笑いのような怪訝な顔をされたので少し傷つき,これだからなあと思いました.

 

 

猫博物館は想像以上にとても楽しめました.どうやら世界的に貴重な剥製を多く所有しているようで,プレハブのような建物に保管されていて大丈夫なのかと心配になりました.

二階は猫が放し飼いにされているスペースがありました.一階と比較してお客さんもたくさん入っており,家族連れもいました.マイルドヤンキーとヤンママのような夫婦がいて,私がじゃれ合っている猫を見て髪を剃りあげた2人の子供に向かい,この子可愛いよ!ほら!と声をかけたので,心臓がキュッと縮みました.遠慮してほかの猫を撫でに行きました.

かれこれ閉館時間まで猫を見ていました.夕方だったからか,猫の多くはとても疲れて眠たそうで,人間の方が申し訳なく感じました.靴紐をほどいて素早く動かしてみると,一部の猫にはウケが良く多少元気を取り戻して紐を折ってくれたので,楽しませられて良かったと安心しました.

ヤンキー家族にも猫にも,私は世間に遠慮して生きているようでした.

 

バーベキューの時間が迫っていましたが,遅れても問題ないだろうという甘えからゆっくりと歩いて帰りました.

夏の終わりとはいえ西陽がきつく,長袖のトレーナーに汗が滲みました.

ロッジ付近になると,合宿に来ていると思わしき男子学生2人とすれ違い,目が合ってしまいました.片方の学生は名字を思い出せませんでしたが,丸メガネが印象に残っており,また昨年の合宿で少し話したことがあったので,とりあえず,わー何してるのーと声をかけました.もう片方の学生は一度も面識がなく,3年生だと思いました.細い目に薄い顔をしていて,覚えづらい顔の造形をしているという印象を抱きました.

2人は暇だから散歩してると,楽しそうににこにこと答えてくれました.猫博物館でおばさんに怪訝な顔をされたことや,ヤンキー家族に遠慮したことなどで地味にダメージを受けていた私は,少しだけ癒されました.

しかし2人と別れた後,何度かデートに行き次のデートの約束を保留にしていた社会人の男性からラインが来ているのを見つけ,折角癒されたメンタルはまたすり減ってしまいました.