Kim & Jessie & ......

見つけてもそっとしておいてください……。

痛々しさ

1つ目.

 

久しぶりに映画の感想を書こうと思います.

 

netemosametemo.jp

 

濱口竜介監督の最新作,「寝ても覚めても」を観てきました.

 

個人的な感想になるんですが,もうあまりに自分の心をえぐる内容で......

4日前に鑑賞したのですがふとしたときに映画の場面を思い出し,動揺してしまう,観る人をそんな状態にするような作品です.

 

監督の他作品は「ハッピーアワー」しか観たことがなく,これはまあ「寝ても覚めても」以上にとっつきづらいんですが,同じく心にぐさりと残る作品で.

 

hh.fictive.jp

 

 

思うに監督は,理性や倫理観を飛び越える人間の描写がとても上手です.

ここでこの行動をとっては最悪の展開になる,トラウマ級に相手を傷つけ,今までの人間関係を崩壊させる......!というような,

打算とでも言うんでしょうか,そういう思考のほぼ”できない”人の描写が上手い.

 

軽々とタブーを飛び越え,こちらの(理性的な?)価値観を挑発し揺さぶってくるので困りものです.

 

 

ハッピーアワーで表現された不倫も,妙な説得力を持って迫ってくるので怖かったです.鑑賞時に恋人はいなかったので実害はありませんでしたが,その時,もし自分が既婚者でこんな作品を見てしまったら,なんというか日常が根本から揺さぶられてしまうんじゃないかと,ソワソワしました.

「昼顔」とか「あなそれ」などの「不倫エンターテイメント」とは別方向の説得力で,価値観を切り崩しにきた記憶があります.

 

というか,実際の不倫を忠実に描いてるだけなのかな.

あんな,ちょっと買い物行ってくるわみたいな決意のなさで,不倫した,とか言わないで欲しい.

 

 

寝ても覚めても」の話に移ります.(以下ネタバレ!)

 

 

 

 

 

 

冒頭から東出昌大の棒読みが炸裂し,不自然な関西弁もすごく気になる.

あああ〜〜話し方めっちゃ違和感ある気持ち悪いなあ〜〜〜と一人で頭を抱えていたら,陸橋,学生たちが火をつけて弾ける爆竹越しに,麦(ばく)と朝子が出会います.

 

象徴的過ぎるにもほどがあります.ずるい.こんな出会い方をしたら,もう一生呪縛から逃れられる気がしません.

 

朝子の,どうしようもなく麦に惹かれるその理由を,わずか数秒の場面で表現してしまうんだから恐ろしいです.

 

 

実際,観ていてとても怖くなりました.私も朝子のような恋の落ち方をしてしまったら,ほんの一瞬その人の居場所がわからなくなるだけで泣きたくなるだろうし,そういう相手に限って絶対に去るんです,何も言わずに.そして去られてその後数年はその人を思い出すことに大半の時間を使うことになり,若さも伴って楽しく活発に過ごせたはずの膨大な時間を浪費する.

そんな,恋です.

 

そして麦もその通りの人間で,朝子と付き合い半年後に行方不明に.気弱で繊細な彼女は,大学時代の友達にろくに連絡もせず大阪から東京へ引越し,ひっそりとアルバイト生活を始めたのでした.

 

亮平と出会ってからの時間は,それはそれは穏やか.

特に,朝子が亮平に,最初彼と出会った時,彼を避けていた理由を話すシーンは,もう素晴らしくてとても感動,爽やかな涙がこぼれます.

 

朝子が,「昔好きだった人と亮平はとても顔が似ていて,それで避けてたんだけど結局気になって付き合ってしまった.でも今は亮平自身がとても好きだから」と伝えると,彼は,「前からそのことは知っていた.悩んだ時期もあったけど,顔が似ていたから付き合えたんだ,ラッキーだと考えるようになった」と返答しました.

 

亮平はどこまでも優しく善い人間で,これがまさしく愛するということ,相手の思考や存在全てを正面から肯定するような,そういう愛し方ができる人なんだと暗示する場面でした.

それに応じるように,朝子もとても穏やかで優しく,言動の節々に亮平への思いやりを感じます.

 

朝子と亮平が過ごした数年間は理想郷かと思いました.

今日はいい映画を観にきたなあ〜こんなパートナーを見つけることを人生の目標にしてもいいのかも,とかなんとか呑気に考えてました.

 

 

でもここからが完全にホラー映画です.

 

亮平の転勤が決まると,二人は大阪に引っ越しました.

新居を,麦が訪れます.朝子を迎えにきたと.

 

この辺りの展開が本作の決定的なところとなっていくので,明言は避けたいですが,なんとなく予想はつくものと思います.

 

朝子は軽々と倫理観やタブーを乗り越えられる側の人間でした.しかも一度ではありません.複数回,軽やかに越えていきます.

奇妙なことに,私は冒頭のシーンでは朝子に感情移入をし,大変な恋をしてしまうもんだよなと共感していたのですが,後半は完全に亮平に感情移入をしていました.

自分のすごく好きになった人,存在を全て肯定できるような,一段階次元の高い愛を与えられるレベルの相手が,もし倫理観を軽々と越えられる側の人だったら,とても怖いです.

気まぐれで浮気や不倫をしてしまって後悔,反省というレベルの越え方ではありません.

なんの悪気もなしに,相手にトラウマを植え付けられる,共感や想像力がとてつもなく貧しい人たちです.

 

実際,私が好きになってしまった人もそちら側の人だったので,亮平の病みようは想像がつきました.朝子を罵倒し,暴言を吐きますが,それでも彼は優しく善い人です.

 

 

善い人ほど傷つけられ踏みにじられる世の中なので,私はさっさと悪態をつき人を踏みにじってく生き方を身に付けたいんですが,結局善い人であることから逃れられません.亮平ほどではないですが.

まあ,人を踏みにじると言っても,心の底からそんなことはしたくないと思っているのです.

途中まではいい感じで踏みつけ続けるのですが,途中で踏み損ねて,自分の謝罪により事態をなんとか丸く収めてしまう,なんて展開が多いです.

加害者であることを丸々認めてしまうので......

亮平は,自分がどれだけ傷ついたか,朝子がどれだけ許されないことをしたかというようなことも主張せず,つまり被害者ヅラをせず,ただただ拒絶し続けます.

この点が,善い人だと思いました.伝わりづらいですが,攻撃に出ず拒絶を続けられるところがとても優しいです.

 

さて,要は亮平や私側の人たちは,朝子のような人間がとても怖いのです.

 

周りの人々の感情,今までの積み重ねてきた経験,関係性,そういうものを簡単に無下にして,その瞬間に自分の思ったことをする.正直な人ですが,同時に想像力に乏しい人たちです.タブーを踏み越えらない人間としては,羨ましく思うことは負けだという認識が拭えません.本当はとても羨ましいんだけど.

「その瞬間は後悔してもきっと後から報われるから,辛抱強く今を生きるんだ」とすることが美德のように感じているのですが,

 

 

 

 

実際,どうなんでしょうか.

 

 

世の中の人,朝子のようには生きないでくれ頼む......と,深いため息とともに後半を観ていたのですが,そんなことないんだろうな.

好き勝手やって人間関係めちゃくちゃにしてさようならってする人,何人か出会ってきたので怖いです.

 

そして何よりも,自分の中の朝子が大暴れする日が来るんじゃないかって心配してるんです.結婚式前夜に逃亡,とかね.